リチウムイオン電池は「半導体」「液晶」のように大化けするか
かつて半導体と液晶は日本のお家芸だった。ところがこの2つの分野における現在の日本企業の立ち位置は、完全に「one of them」(それらの中の1つ)である。しかし不振にあえいでいたニッポン柔道が完全復活したように、モノ作りニッポンの底力を見せてほしい。
そしていま、官民の双方が日本経済の起爆剤として期待しているのが「革新型蓄電池」である。その代表格である「リチウムイオン電池」開発は、政府の重点経済政策にも挙げられ、トヨタやパナソニックなどの大企業も社命をかけた取り組みをしている。
シェア94%が39%まで落下、韓国にも抜かれる始末
最近ニュースを騒がせたリチウムイオン電池といえば、韓国サムスンのスマホ発火事故だろう。それで「リチウム=恐い」というイメージを持ってしまった人もいると思うが、ビジネスパーソンは「日本の産業」というレベルでの視野が必要である。
自動車向けなどの「大型」を除いた、小型のリチウムイオン電池だけでも、2011年の世界市場は1.2兆円である。「小型」の用途はスマホのほか、ノートパソコンやタブレット端末など。経済産業省はこれが2020年には1.5兆円に拡大すると見込んでいる。
ところが日本勢に元気がない。小型リチウムイオン電池の世界シェアの推移を追うと、日本企業は2000年には94%だったが、2011年には39%にまで落ち込んでいる。一方、勢力を拡大させているのが韓国企業で、2000年の3%から2011年の41%にまで拡大し、なんと日本を追い抜いてしまったのである。
試される経済産業省の本気度
国はこうした事態を深刻に受け止めていて、経済産業省は次のように述べている。
「これまでも蓄電池については、当省において力を入れてきたものの、それぞれ蓄電池の用途によって担当する部局が分かれているため、ともすると、連携の悪さが目立ちがちであった。このような問題意識から、経済産業大臣及び国家戦略担当大臣のイニシアティブの下、部局横断的な蓄電池戦略プロジェクトチームを設置した」
半導体のときと同様に、国が本気でテコ入れすることを決めたのである。縦割り行政に対する自己批判には、強い意欲がうかがえる。
「危ない」は昔の話? コストダウンが格段に進んだ
一方の自動車業界は、もっと力が入っている。――と業界を概観する前に、リチウムイオン電池について解説する。リチウムイオン電池の中には正極と負極があって、その間をリチウムイオン電池が移動することで電気が起きる。「充電と放電」が可能な点では、従来のニッケル水素電池と同じだが、リチウムイオン電池は「軽い、小さい、充電量が大きい、高性能」という利点がある。
その代り、リチウムイオンは扱い方を間違えると発熱する欠点があり、そのため製造コストが高くなるデメリットがあった。サムスンのスマホ発火事故を例外とみなすと、現在ではメーカーの懸命の開発によって安全性が確保され、コストダウンも進んだ。
トヨタ、ホンダの戦略がパナソニックの巨大投資を生む
パナソニックは2015年に、自動車用の大型リチウムイオン電池の生産工場を中国に建設すると発表した。総額500億円のプロジェクト。パナソニックがこれだけの巨大投資を決めた背景には、ザ・日本企業のトヨタのある決定が大きく影響している。
トヨタは2050年までに、エンジンだけで走る自動車の生産を完全にやめて、すべてのクルマに「何らかの電動システム」を搭載すると発表している。ホンダも2020年までに、プラグインハイブリッド車と電気自動車と燃料電池車という「何らかの電動システム」を搭載したクルマを年間3万5千台生産する計画を持っている。
アベノミクスの成長戦略の成功事例になるか!?
そしてメガ企業より熱いのは、経産省である。ガソリン車と同等の航続距離の走行を可能とする電気自動車をつくるために、現行のリチウムイオン電池の能力を大幅に上回る革新型蓄電池を2030年までに実用化する、という目標を掲げているのだ。予算付けもしっかり行っている。
アベノミクスのコンセプトは、金融緩和、財政出動、成長戦略の3本である。しかしデフレは改善傾向すらみられず、苦戦していることは明白である。そしてその原因も明白である。成長戦略が軌道に乗らないからだ。リチウムイオン電池とその先の革新型蓄電池が、成長戦略の成功事例となることを期待してやまない。(設備投資ジャーナル 編集部)